新型コロナウイルスが連日ニュースで取りあげられるようになりました。
中国湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルスによる感染が近隣の韓国、日本のアジア諸国に留ま
らず遠く、イラン、イタリアまで波及し、WHO(世界保健機関)はパンデミック寸前の状態に在ると宣言
し、東京五輪の中止、延期にまで論議が及ぶに到り、政府は28日、全国すべての小中学校や高校など
に来月2日から春休みに入るまで臨時休校とするよう各都道府県教育委員会などを通じて要請しました。 |
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臨時休校を要請する安倍首相 |
近年、動物由来と考えられる2種類のコロナウイルスが発生しヒトに感染し流行しました。
2002年の重症急性呼吸器症候群(SARS)や2012年以降発生している中東呼吸器症候群(MERS)です。
新型コロナウイルスが動物由来との確定的な証拠は見つかっていませんが、その遺伝子配列が、
コウモリ由来のSAES様コロナウイルスに近いため、コウモリがこの新型コロナウイルスの起源と
なった可能性が考えられています。
(参考)国立感染症研究所、日本ウイルス学会ホームページ
https://www.niid.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/9303-coronavirus.html
「COVID-19」と命名された新型コロナウイルスによる感染者数は、Yahooによれば3月3日時点で下図
のようにに見込まれております。
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日本での感染者数の推移 |
新型コロナウイルスの感染力(1人の発症者が治るまでに何人にうつすかを示す「基本再生産数」)
は2.2と考えられています。これは通常のインフルエンザと同等のレベルですのでそれほどうつり
やすいとは言えません。
では、ウイルスの“毒性”はどうでしょう。中国では、重症の患者さんだけに、のどの奥をぬぐっ
た液や痰(たん)に含まれるDNAを増幅する「PCR」という方法で、ウイルス由来のDNAがないか
を調べる検査を行っていると考えられ、分母となる患者さんの数が実際の感染者数よりも少なく
なっています。その結果、致死率が武漢市で6.0%、中国全体で2%(2月5日現在)など高い値に
なります。ただし、中国国内でも“震源地”の湖北省を除外して感染者の致死率を計算すると、
公表されている患者数を分母に計算しても0.2%弱(2月5日現在)と、かなり低くなるのがわかります。
武漢から日本に帰国した人たちの検査をする中で、症状がない、あるいは軽い患者さんからもウイル
スが検出されています。この事実から考えられるのは「日本は水際対策で検査をしているため、軽症
や無症状の感染者まで把握されている」ということです。一方の中国では前述のように重症者だけし
か検査をされていません。武漢に滞在後に帰国した日本人全体と感染者数の比率から考えても、
人口約1100万人の武漢市で新型コロナウイルスに感染している人は、発表されている数よりも多く
いるであろうということが想定されます(著名な医学雑誌「THE LANCET」は1月31日、武漢市及び
周辺で約7万5000人の感染者がいると推計する論文を掲載しています)。
SARSの治療法が有効か?
中国を中心に、世界中で治療法が模索されています。
まず、ウイルスが原因ですから、いかなる種類の抗菌薬(抗生物質)も効果はありません。
十分な科学的な証拠はありませんが、HIVの治療薬であるロピナビル/リトナビル合剤
(商品名:カレトラ)が2002〜03年のSARS(重症急性呼吸器症候群)流行の際に有効である可能性が
示唆されました。今回の新型コロナウイルスに対しても中国の病院で使用されているという報道が
あります。ただ、この薬剤の副作用で下痢などが起きるため、治療をするとしても重症の患者さん
に限られます。
いずれにしても、症例も少ないため、確定的な治療法は見つかっていないのが現状です。
またワクチンの開発も月単位でかかるため、最終的に皆さんに行き渡るためには時間がかかるこ
とが予想されます。
「水際対策」でも国内に広がる可能性
日本では国を挙げての水際対策がなされています。これで完全に新型コロナウイルスの拡大を防げ
るかというと、かなり難しいだろうということが想定されます。なぜかというと、資源・時間・
人手の観点から、今のところ主に「(A)37.5℃以上の熱とせきなど呼吸器症状があり、発症前14日
以内にWHOの発表から新型コロナウイルス感染症の流行が確認されている地域(現時点では湖北省に限定
)に渡航又は居住していた人
」「もしくは(A)に当てはまる方に濃厚な接触があった人」という条件を満たさない限り、前述の
PCR検査は行われないからです。
検査をする人の範囲を決める「流行地渡航歴」の定義は、国や専門機関により異なります。
すでに流行地域は複数存在していますので、湖北省以外への渡航歴やそこに滞在していた有症状者と
の接触は検査の対象にならない可能性が高いでしょう。また、そもそもすべての検査には100%の精度
がなく、これはPCR検査も同様です。つまり検査をしても一定数の症例をこぼす可能性があることは、
どの検査にもつきものです。また、症状の幅が広く、かつ特異的な症状が明らかでない感染症は、
水際対策で蔓延を防ぐことは元来難しいのです。2009年に新型(H1N1)インフルエンザが世界的に流行
した際にも水際対策を行いましたが、最終的にはかなりの広がりとなりました。
今回も同様に広がることが懸念されます。ただ、急な拡散は体制・時間・資源のいずれの面でも病院の
対応が間に合わなくなってしまいます。ですので、ここまでに述べたように検査ができる・できない、
検査の陽性・陰性の結果にかかわらず▽手洗いを徹底する▽症状がある人はマスクを着用する▽不要
不急の外出は避ける▽集会や集まりなどへの参加は控えめにする▽同様に気道症状で流行のある疾患で
ワクチンがあるもの(インフルエンザなど)は適切に接種する――などの対策を1人1人が講じることで、
少しでも広がりを抑制していくことが必要になると考えています。
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