−日記帳(N0.1729)2015年12月09日−
「あかつき」金星の軌道投入成功
−日記帳(N0.1730) 2015年12月11日−
大村 梶田両氏にグスタフ国王メダルと賞状を授与


「あかつき」から送られてきた金星の画像(縞模様が初めて確認されている)

グスタフ国王からメダルと賞を受ける梶田隆章さん


大学教養部時代の同級生による忘年会が名古屋駅前のマリオットアソシア18Fの「華雲」で行われ会員が集いました。昨年SA君が亡くなったため会員は9名になりました。 SO君が30分時間を間違えたため遅刻しましたが、9人全員揃って日本料理で歓談しました。

秋の叙勲で受賞した大学副学長のSA君に祝杯を上げ、既に紫綬褒章を授与されている、もう一人のSA君にも話が及びました。この仲間には電力会社等の大企業の元役員等も居り、何も肩書きの無い私は肩身に狭い思いをしながらも、得意の天文学で話題を提供して場を持ちました。その話題が金星の軌道投入に成功した「あかつき」でした。

46億年前、地球とほぼ同時期に生まれた金星は表面温度が500℃にも達する炎熱地獄の惑星です。かくも異なった環境を金星に与えた要因が何であったのかが天文学上の大きな課題の一つであり、これを紐解くことで地球の誕生や気候変動を解明する手がかりが得られることもあって1960年代からソ連、米国、欧州で相次いで金星探査機が打ち上げられました。

しかし、ソ連はコスモス計画で12機のうち11機が打ち上げ失敗、ベネラ計画では1号から6号まで軟着陸に失敗し漸く7号が成功たもののその後16号まで半分が失敗し、その後ベガ計画に切り替えて2機打ち上げましたが2機とも着陸に失敗しております。米国もマリナー計画で何機か打上げましたが着陸に成功したのは1978年のパイオニア・ヴィーナス2号だけで、それも通信が途絶えて探査はできないまま現在に至っております。

結局、現在地球に金星表面の観測データを送っている金星探査機は、2005年11月9日に打ち上げられ2006年4月11日に金星周回軌道に到着した後、5月7日に観測用軌道に乗った欧州宇宙機関 (ESA)のビーナス・エクスプレスだけとなっております。日本では、PLANET-C計画によりこれまでの米露欧での経験を生かして、画期的な観測用カメラを搭載した「あかつき」が、2010年5月に打ち上げに成功したH2A17号ロケットから切り離されて金星に向かいました。

人工衛星は、ロケットを切り離して所定の高度に達してから人工衛星に搭載されているエンジンを稼働して地上と水平の方向に第1宇宙速度のV1=√(GM/R)=7.9km/s にして地球から受ける重力と人工衛星が持つ遠心力をバランスさせて地球の周回軌道に乗せます。「あかつき」のように惑星探査機の場合は、探査機を第1宇宙速度V1を越える速度にしてまず地球を離脱させる必要があります。

「あかつき」の目的は金星に着陸させることではなく金星を周回する金星の衛星にすることですから、地球を離脱してから地球の公転軌道に沿って飛行し、金星に接近したら金星の公転軌道に乗ってある高度に達したら減速して金星の周回軌道に乗せる必要があります。そのためには地球の公転の半周分をほぼ地球の公転速度で飛行させねばなりません。

「あかつき」は予定通り打上げの2010年5月21日から半年弱の171日を要して2010年12月7日に所定の位置に到着しました。金星は地球より僅かに小さい分、重力が小さいので同じ高度なら地球での第1宇宙速度より小さくする必要があります。そのために、「あかつき」に搭載されているエンジンを逆噴射させて減速指令をだしました。ところが残念なことに、姿勢異常検知システムが誤作動してエンジンが停止し所定の減速が得られませんでした。

この結果、「あかつき」は金星の周回軌道に乗らずに太陽の惑星となって楕円軌道を描くようになりました。この時点でJAXAは軌道投入の失敗を認め謝罪しました。 しかし、JAXAは諦めずに「あかつき」を金星の軌道に投入できるラストチャンスを狙い続け、今日それを実行し奇跡的に成功に導いたのでした。

軌道投入を成功させるためには、タイミングの見究めと「あかつき」の機体の整備が必要でした。軌道担当の広瀬史子主任研究員は数万のケースを計算してタイミングを打上げから丁度5年後の今日、午前8時51分と見究めました。

設計寿命の4年半を過ぎ、バッテリーは劣化しているため、出力の小さい姿勢制御用エンジンを使い、効率よく航行できるよう、使用を断念した主エンジン用の薬剤を捨てて軽量化した上、高温に強い側が常に太陽を向くようにしております。

「あかつき」には、異なる波長の光で見るカメラが5台搭載されております。金星の表面を撮影する時は、カメラを一斉に同じ方向に向け、それぞれ違う高度の大気を同時に捉え、2時間に1回写真を撮ります。長期連続して撮影することによって、大気がどのように循環しているかを動画で見ることができます。カメラごとにデータを見るだけでなく、5台のカメラの画像を比べることにより異なる高度の現象の違いを分析することができます。

このようなデータを分析することで、地球と同じ時期に隣り合って誕生した兄弟星の金星が何故、地球とは似ても似つかぬ過酷な環境を持つようになったのかを知る手掛かりが得られる可能性が有ります。金星が現在のような過酷な環境を持つように至ったかを説明する学説として、私が勝手にその名を付けた「二酸化炭素フリー説」が有ります。

これは、金星も地球も誕生当時は全く同じ環境だったのに、ある現象を契機に金星では二酸化炭素が地球の30万倍まで増え続けたのに対して、地球では二酸化炭素の海水への溶解、更に溶解した二酸化炭素が炭酸塩として固定化されたり、植物の炭酸同化作用で分解されたりして、二酸化炭素がフリーにならずにその増加が制限されたとの仮説が基になっております。

金星が大量に存在する二酸化炭素による温室効果によって高温になっていることから、「二酸化炭素地球温暖化説」が立証されたとの意見が有るとすれば、それは正しくないと思われます。何故なら、二酸化炭素だけでは、現在の金星の500℃近い温度を説明出来ないからです。つまり金星に微量に存在する水蒸気による温室効果を認めざるを得なく、逆に金星より遥かに多く存在する水蒸気の温室効果を無視している「二酸化炭素地球温暖化説」の誤りが立証されるとも考えられます。

金星探査によって金星の大気成分や、地表の元素組成を詳細に調べることによって地球誕生だけでなく温室効果のメカニズムを解明することで、現行の「二酸化炭素地球温暖化説」の誤りが立証されて、地球と人に優しい「地球温暖化説」が誕生することが期待されます。まさに、金星は地球の反面教師のような存在であるが故に、その探査は単に好奇の対象に留まらず人類の将来のために必要です。その意味で今回の「あかつき」の軌道投入成功は人類に多大な貢献をもたらすことと思います。

「あかつき」

今年度の物理学、医学・生理学の各部門でノーベル賞を受賞された梶田さん、大村さんにスウェーデン・グスタフ国王がメダルと賞状を授与される授与式が、ストックホルム市庁舎の2階にある「黄金の間」で行われました。

グスタフ国王からメダルと賞を受ける大村さん

2006年の6月から7月にかけて北欧に旅した折に、ストックホルム市内見学する機会が有り「黄金の間」を見学する機会が有りました。正面にはスウェーデンの象徴、メラーレンの女王の大きな壁画が描かれております。下の画像はその折りに撮影したものです。

ストックホルム市庁舎の2階にある「黄金の間」

「黄金の間」の階下の一階の「青の間」で晩餐会が開催されます。晩餐会は受賞者とスゥエーデン王族の方々を囲むようにして招待客、ディナーパートナー等が参加して行なわれます。会場には多くのテーブルが並べられ、全て指定席になっております。食器のフォークとナイフに日本製(新潟県・燕市の山崎金属)が採用されていることでも知られております。下の画像はその「青の間」です。

ストックホルム市庁舎の1階にある「青の間」

「青の間」での晩餐会では梶田さんは世界屈指の美貌の王女として知られるマドレーヌとドイツ生まれのシルヴィア王妃に囲まれる幸運に恵まれました。マドレーヌは米国での生活が長く英語も話せるので、梶田さんと英語で会話をされたことと思います。

マドレーヌ王女とシルヴィア王妃に囲まれる梶田さん

ストックホルム市内のホテルで記者会見する大村、梶田両氏

世界屈指の美貌のマドレーヌ王女

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