−日記帳(N0.1699)2015年10月05日−
大村さんノーベル・医学生理学賞受賞
−日記帳(N0.1700) 2015年10月06日−
梶田さんノーベル・医学生理学賞受賞


ノーベル・医学生理学賞を受賞された大村智さん

ノーベル・医学生理学賞を受賞された梶田さん


夕方の6時半過ぎ、テレビを観ていたら「ノーベル・医学生理学賞を大村智さんが受賞されました・・・」とのテロップが流れましたので驚きました。昨年日本人3人がノーベル物理学賞を受賞されているので2年連続は無いものと思っておりました。

私は大村智さんも彼の業績も全く存じ上げませんでした。事前にネットで日本人候補者を調べてみましたが、彼を候補に挙げている記事は全く見当たりませんでした。しかしテレビで数々の業績が紹介されるに及んでその偉大さに心打たれる思いでした。

彼は学者としてのみならず、人としても世界に誇れる存在でした。彼の業績によって延べ数億人の人命が救われたと言われます。 彼は微生物の生産する天然有機化合物の探索研究を続け、これまでに450種を超える新規化合物を発見しております。

遺伝子操作による新規化合物、マクロライドを中心とした一連の有用化合物の創製、抗寄生虫抗生物質イベルメクチン生産菌の遺伝子解析などの業績を挙げております。 薬関連の特許料で得た250億円の大半を研究助成や病院建設などに使い、残りを上村松園や三岸節子など日本画家を中心とした美術品の収集に充てております。

2007年には山梨・韮崎市に「韮崎大村美術館」を自費で開館した上、約2,000点のコレクションとともに市に無償で寄贈しました。慈愛の精神にあふれ、今日の記者会見でも「微生物に感謝」などの名言を連発しております。

大村氏はイベルメクチンの特許権を放棄し世界保健機関(WHO)を通じ、アフリカや中南米などで延べ10億人以上に無償提供され、多くの人々を失明の危機から救いました。 イベルメクチンが犬のフィラリア予防薬になっていることを今回初めて知りました。

大村智さんが創設した韮崎美術館

1933年、イタリアの学者エンリコ・フェルミは、中性子(ニュートロン)を発見、更に中性子より小さい粒子も発見、これを「小さな中性子のモノ」を意味するイタリア語「ニュートリノ」と命名しました。

その後、ニュートリノは米国の学者(デリック・ライスとクライド・コーワン)が原子炉から放出される粒子の中から発見しております。 ニュートリノの発見が遅れたのは、その存在が稀だからではなく逆にどこにも在るからでした。宇宙からも地球の内部からも絶えず大量のニュートリノが地球表面に到達しており、我々は大量のニュートリノに常に曝されております。

宇宙で光子に続いて多く存在しているのがニュートリノです。電荷も持たず、その大きさは地球と太陽の距離1.5億qに対して髪の毛の太さぐらいに小さいので、人体どころか地球も容易に素抜けしてしまいます。ニュートリノは毎秒100兆個も人体を素抜けしておりますが、小さくて電荷を持たないが故に人体に悪影響を与えません。

アインシュタインの相対性原理は真空中の光速がどんな場合でも一定(c)であるとしております。物質中を伝播する光速はcよりも遅くなり、例えば水中では0.75c程度です。しかし粒子加速器などで加速すればいくらでも加速できます。ところが、相対性原理に反することはできませんので光を放って減速します。その光がチェレンコフ光です。

電子は原子の周りを回っていますが、電子にニュートリノがぶつかると電子がその軌道から飛び出して行きます。その飛び出すスピードが「水中の光速」を超えるスピードになった場合、そこから光が発せられます。その光がチェレンコフ光となります。

この原理を利用して、ニュートリノの存在を検知できます。その検知装置が浜松ホトニクス製の光電子増倍管です。大きな水槽の周囲にこの光電子増倍管を張りめぐらせておけばニュートリノ検知装置が出来上がります。

東大の小柴昌俊教授は、その検知装置を岐阜県の神岡鉱山の跡地の地下に造りニュートリノの観測を始めました。最初の装置は<「カミオカンデ」と呼ばれ、1983年に完成しました。3000トンの超純水を蓄えたタンクと、その壁面に設置した1000本の光電子増倍管からなっておりました。

小柴昌俊教授

チェレンコフ光を検出した光電子増倍管がわかると、計算によりどの方角からきたニュートリノによる反応かがわかるしくみになっております。 苦労してカミオカンデを造った小柴教授に幸運が訪れました。1987年2月23日のことでした。

小柴教授はこの仕組みによって、大マゼラン星雲で起きた超新星爆発 (SN 1987A) で生じたニュートリノを偶発的に世界で初めて検出したのです。教授はこの功績により、2002年ノーベル物理学賞を受賞しました。

望遠鏡で捉えられた超新星爆発SN1987A

カミオカンデのもう一つの目的は陽子崩壊に関する研究です。 大統一理論で陽子は永久に崩壊しないとされておりますが、それでも有限でその永さは概ね10^30年以上と予想されています。宇宙の年齢がおよそ138億年ですから、途方もない長さです。

陽子崩壊の研究を更に推し進めるために、50,000トンの超純水を蓄えた直径40m、深さ41.4mのタンクとその内部に設置した11,200本の光電子増倍管からなるスーパーカミオカンデが1996年から稼働しました。

スーパーカミオカンデで、検出器内の純水中に含まれる7.5x10^33個の陽子を12年以上観測し続けていますが、いまだに陽子崩壊を観測しておらず、陽子の寿命は少なくとも10^34年以上と見積もられています。

10月9日公開されたスーパーカミオカンデ

素粒子物理学の標準模型では、3種類あるニュートリノはどれも質量がゼロであるとされておりました。小柴教授、故戸塚洋二東大教授、梶田隆章東大教授(当時は助手)等スーパーカミオカンデ実験グループが行った、宇宙線が大気と衝突するときに生成される大気ニュートリノの観測により、飛行中にニュートリノの種類が変わるニュートリノ振動の確実な証拠を1998年に世界で初めて発表しました。

ニュートリノが振動することはニュートリノに質量が有ることを意味しております。スーパーカミオカンデと KEK-PS(陽子加速器)を用いたニュートリノ振動実験によって、ニュートリノに質量があることが世界で初めて確認されました。

この功績が認められて、梶田隆章教授に2015年度ノーベル物理学賞が授与されました。Arthur B. McDonald教授も同時受賞されました。McDonaldさんは2001年頃にカナダのサドバリー・ニュートリノ天文台(Sudbury Neutrino Observatory;SNO)での実験などを主導し、30年来の謎であった太陽ニュートリノ問題(ニュートリノの観測数が太陽の理論モデルと一致しないという問題)の原因がニュートリノ振動であることを明らかにしております。

梶田隆章教授等は今後も太陽ニュートリノ観測、宇宙由来ニュートリノ観測、陽子崩壊観測、また東北大学がカミオカンデの跡地に設置したカムランド検出装置と密接に連携しニュートリノ物理学を発展させる予定で更なる新発見が期待されます。

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